毎日新聞記事に「国と地方の協議 密室の議論懸念」

毎日新聞 2011年9月27日「記者の目」に、生活保護の「国と地方の協議 密室の議論懸念」という見出しを含む記事が掲載されました。


記者の目:生活保護200万人の時代=小林多美子
http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110927k0000m070132000c.html

 生活保護の受給者が増え続けている。今年3月、戦後の混乱期以来となる200万人を突破した。8月中旬、新潟面で「働きたいのに
生活保護200万人の時代」を連載し、働く意欲はあっても働けず、生活保護を受給している新潟の人たちの現状をリポートした。痛感したのは「働きたくても働けない」ことが、誰にとっても人ごとではないということ。現在進められている生活保護制度の見直しは、雇用や社会保障の実情を踏まえたものにすべきだ。
 働きたくても働けない人が増えている背景には、まず不景気に伴う厳しい雇用状況がある。7月の全国の有効求人倍率は0.64倍。正社員の職を求めようとすれば0.37倍まで下がる。新潟県新発田市生活保護受給者の就労支援員をしている広瀬栄子さん(42)は「普通に働いてきた人が、働けなくなり生活保護を受給している」と指摘する。
 新潟市で6月から生活保護を受給している女性(48)は、アルバイトで警備員をしている。日給は5000円ほど。若者に優先的に仕事が回るのか、仕事が毎日入るわけではない。特に3月ごろからは週1回も入らない状態が続き、生活が立ち行かなくなった。

 ◇仕事があるならなんでもやるが

 「ハローワークに通ったり就職活動をしないと、3カ月で支給を打ち切ります」。女性は受給が決まった直後、福祉事務所でケースワーカーに言われた。「仕事があるなら、なんだってやる気はある。ばかにされているような気がした」と打ち明けた。
 女性のような弱い立場の人を助ける機能も、十分に発揮できているとは言えない実情がある。彼女の場合、車の運転免許がないことが就職活動の足かせの一つだった。電車やバスなど公共交通機関が乏しい地方では免許がないと応募すらできない求人も多い。生活保護でも、就労のための技能修得費として運転免許の取得費用が38万円まで受給できるが、運用は各自治体や福祉事務所次第。既に内定が出ている場合に限って支給するなど、厳しい条件が付けられていることが多いとみられる。新潟の女性は制度の存在すら知らされていなかった。
 生活保護法は目的に「最低限の生活の保障」と共に「自立の助長」を掲げる。その意義はもっと評価されていい。
 取材で出会った20代の男性の言葉が忘れられない。「あなたにとって生活保護とは?」との問いに、男性は「国に『生きなさい』って言われている気がする」と答えた。
 男性は昨夏まで、自分が統合失調症とは知らずに苦しんできた。人間関係がうまくいかず、仕事も続かない。自殺未遂を繰り返した。男性は受給が決まり、今は「『生きていこう』と思えるようになりたい」と言う。男性にとって生活保護は欠かせない「支え」であり、自立への第一歩だ。
 だが、支給に期限を設けようとしているのでは、と懸念の声が上がる検討作業が厚生労働省で進んでいる。きっかけは、政令市長でつくる指定都市市長会が昨年10月に発表した生活保護の改革案だ。

 ◇国と地方の協議 密室の議論懸念

 改革案は、生活保護費の全額国庫負担などを求めると共に、「働ける受給者」を対象に「集中的かつ強力な就労支援」を行い、もし受給者が真摯(しんし)に取り組まず自立できなかった場合、3年あるいは5年で打ち切りを検討するとした。5月末に設置された国と地方の協議会は、9月中にも具体案をまとめる見通しだが、メンバーは地方自治体の代表者と厚労省政務三役だけで、当事者やその声を代弁する立場の人は入っていない。しかも協議は非公開(後日、概要を公表)で、生活困窮者の支援団体などからは「密室協議」との批判が出ている。
 改革案の背景には、受給者増による自治体の財政負担の膨張がある。もちろん、増え続けることが望ましくないのは当然だが、議論がまず期限設定ありきで「切り捨て」の方向に向かわないか心配だ。
 08年の金融危機以降、増え続ける「派遣切り」などで、雇用保険に未加入の非正規雇用労働者らが失業後、生活保護に頼るしかないことが問題視された。このため職業訓練とセットの給付金など「第2のセーフティーネット」ができた。求職者支援法として法制化され、来月施行される。また生活上の困難を抱える一人一人を相談員が総合的に支援する「パーソナル・サポート・サービス」なども始まった。
 政府や自治体は、こうした取り組みを踏まえ、免許がないために働けないといった受給者の状況、抱える困難などに応じ、きめ細やかな支援を実施するための制度改革こそ行うべきだ。密室の議論で、それができるとは思えない。

デモの新聞報道(その3)

東京新聞が、7月20日の院内集会生活保護問題対策全国会議、反貧困ネットワーク主催)と8月10日のデモをあわせて当事者の声を中心に記事にしてくれました。

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東京新聞2011年8月25日
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生活保護制度改革 密室協議に募る不安
     
生活保護制度の改革を目的に進められている国と地方の協議に対し、受給者らが不満を募らせている。医療費の自己負担導入など、制度の縮小が議論されているのに、協議が非公開で、受給者が意見を述べる機会が一切設けられていないからだ。暮らしの実態を訴える受給者の声に耳を傾けた。 (稲田雅文

「仕事がないのに生活保護を打ち切るとしたら、死ねっていうことですよね」と東京都内在住の四十代男性。二年半前から生活保護を受け、求職活動を続けている。今も、家族を養える仕事は見つからず、週一回、ハローワークで求人情報端末を操作する。

七年前、長女の誕生を機に岩手県から単身東京へ出て仕事を探した。
派遣社員として職を転々とした後、車の整備工場に勤めていた二〇〇八年末、派遣切りに遭い、失業。日比谷公園年越し派遣村に身を寄せ、生活保護を申請した。

厚生労働省によると、六月の有効求人倍率(季節調整値)は〇・六三倍で、雇用情勢は依然厳しい。協議では、失業した現役世代の受給者への対策が焦点の一つ。こうした世帯は〇八年のリーマン・ショック後から倍増。四月現在で二十四万三千五百世帯に上る。

受給者が最も懸念するのが、自立を促す狙いで生活保護に期限を設ける有期保護の導入だ。提案した地方側は「機械的に保護を打ち切る制度にしてほしいという趣旨ではない」と協議で火消しに努めたものの、受給者の不安は尽きない。

都内の三十代男性は統合失調症で就労が困難な境遇。十年以上前から生活保護を受け、検討されている医療費の一部自己負担導入に不安を感じている。同じ病気の妻と二人暮らし。お互い一人で病院に行くのは難しく、通院の際は互いに付き添う。生活保護制度から「通院移送費」として出る一人分の交通費を除き、付き添い分は生活を切り詰めて捻出する。自己負担が導入されると、夫婦合わせて月十回以上ある通院によって生活費がさらに削られる。男性は「私たちにとっては大きな問題。なぜ弱い人を苦しめようとするのか」
と訴える。

「わたしたちの声を聞いてください!」。八月十日、生活保護の受給者や支援者ら七十人が厚労省前の日比谷公園を起点に、声を上げながら東京駅近くまでデモ行進をした。

参加者は「有期保護では生存権は守れない」「自己負担の導入はいのちの値引き」などと書かれた看板を掲げてアピールした。

責任者を務めた東京都内の四十代男性も生活保護を受給する。昨年六月、職場での嫌がらせが原因でコンビニを退職。職を探しているときに体調を崩し、生活保護を申請した。今回の協議を知り、仲間とともにデモを準備した。「受給者の意見が反映されるべきだ」と話す。

デモの新聞報道(その2)

行政が依存する無料定額宿泊所の実態、それへの大阪市の取り組みと背後にある意向について8月15日〜18日に4回連載されてきたコラムの最終回で、デモについても取り上げています。

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朝日新聞8月18日夕刊
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生活保護 制度の陰で 4

「最後の砦」見直しに不安

 「人の命に、期限をつけるな」
 10日、東京・日比谷公園近くの厚生労働省や、大阪市東京事務所が入るビルの前を、約70人がデモ行進した。職を失った後に生活保護で立ち直りのきっかけを得たという女性(32)は、「私たちを守る制度を壊さないで」と訴えた。
 厚労省はいま、生活保護制度の見直しに向けた自治体との協議を非公開で進めている。昨年10月、政令指定市長でつくる「指定都市市長会」が、大阪市の発案をきっかけに政府に改革を提言。協議はこの流れを受けたものだ。
 市長会の提言には、働けると見られる保護受給者が職を得られない場合には一定期間後に保護取りやめを検討する、医療費の一部の自己負担を求める、といった項目がある。このため保護を受けている人らは「憲法25条が保障する最低限度の生活が守られなくなる」と反発している。
 こうした反発や不安をさらにかきたてているのが、大阪市の動きだ。今年1月、市は各区役所の担当者に保護申請者への就労についての助言指導のガイドラインを配った。
 働けると見なせる申請者が「就職面接を何回もしたが就労の機会がない場合」は保護を認める一方、「就労への意欲がなく、求職活動を行わない」と判断される場合などは却下するとの内容だ。
 すでに実例も出ている。失職した30代の男性は6月に保護申請。担当職員から「週に2回は面接を受けるように」と求められたが、交通費に事欠き、体調が悪くて外出できない日もあったことで「熱心さがない」と却下された。男性は受給者の権利擁護に取り組む弁護士たちの助力を得て、ようやく保護が認められた。
 小久保哲郎弁護士は、「ガイドラインがほかの自治体に広がり、新たな申請拒否の動きにつながる可能性もある」と懸念する。
 一方で、無料定額宿泊所の事業者に対する全国的な規制の動きは鈍い。民主党の有志が昨春から規制法案の国会提出を検討中だが、政局の混乱もあって見通しが立たないままだ。
 生活保護制度の改革に反対する学者らは、生活保護以外の社会保障の枠から外れがちな非正規雇用からの失業者らを救うことこそ問題解決につながると主張。住居確保や職業訓練を含めた就労支援など「第2のセーフティーネット」の拡充を求める。
 首都圏のある自治体の生活保護担当幹部は語る。「生活保護は国民を守る最後の砦(とりで)だ。ここに来る前に救えれば保護対象者は減り、業者もはびこらない。それなのに、現状は『最初で最後の砦』。矛盾は大きくなる一方だ」
                                         (吉田啓、園田耕司)
                                               =おわり

デモの新聞報道

いくつかの新聞(ウェブ版含む)で、デモや、デモを含んだ記事が掲載されましたのでご紹介いたします。

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毎日jp毎日新聞のウェブ版)2011年8月11日 2時32分
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生活保護改革:国と地方の協議難航、とりまとめ先送りへ

 生活保護制度の改革を目指す国と地方の協議が難航し、厚生労働省が当初予定していた今月中のとりまとめが延期される見通しになった。全国の保護受給者は200万人を突破。財政負担も急増し、国も地方も改革の必要性は認めているが、働ける受給者への就労支援強化などで地方側は事務量の増加を懸念しており、調整には時間がかかりそうだ。

 協議は厚労省政務三役と石川県知事、大阪市長ら地方代表の4首長との間で5月末にスタートした。事務レベルの会合には東京都や川崎市も加わり、非公開(協議概要は後日公開)で進められ、5回目となる10日が最終の事務会合になる予定だった。しかし、医療費の自己負担導入など自治体間の考え方に温度差がある課題があり、とりまとめ案を協議する本会合は9月以降になることが確実になった。

一方、東京・霞が関厚労省周辺では10日午後、生活保護受給者ら約70人がデモ行進。「密室協議ではなく、当事者の声を聞いてほしい」などと訴えた。【石川隆宣】

http://mainichi.jp/select/today/news/20110811k0000m040144000c.html


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朝日新聞8月11日朝刊社会面(33ページ)
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生活保護受給者がデモ行進

 生活保護受給者が200万人を越え、制度見直し協議が進むなか、生活保護を利用する当事者ら約70人が10日、「わたしたちの声をきいてください」という横断幕を掲げ、東京都内の霞が関、銀座周辺を1時間余りデモ行進した。
 デモを呼びかけた実行委員会のメンバーは、ホームレス経験もある元会社員、車イスの障害者ら、当事者の男女5人。参加者は、「当事者抜きで制度を変えるな」などと訴えた。


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赤旗8月11日記事
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生活保護利用者がデモ 「失業者の生存権を守れ」 東京

 「私たち抜きに勝手に制度を変えないで」「失業者の生存権を守れ」と訴えて生活保護利用者らが10日、東京・日比谷公園から銀座までデモ行進しました。首都圏近郊から約70人が参加しました。
 厚生労働省指定都市市長会は、非公開・密室で、▽「有期制」▽医療費の一部自己負担―など生活保護制度改悪に向けて議論をすすめ、8月をめどに意見をとりまとめようとしています。
 東京都内に住む加藤孝さん(48)は、現在、政府がすすめている障害者制度改革では当事者参加がすすんでいると指摘し、「当事者参加が政治の流れになりつつあるのに、憲法25条で保障されている生存権にかかわる問題を当事者抜きで決めようとするのは許せない」と語りました。
 首都圏からきた女性(32)は病気で仕事を続けられず、1年半前から生活保護を利用しています。「誰もがいつ利用するかわからない制度です。最後のセーフティーネットとして使い勝手のいいものに変えたい」と強調しました。
 車いすで参加した川西浩之さん(38)=東京都世田谷区=は「ただでさえぎりぎりの生活。医療費の自己負担が導入されたら、とても生活できない」と話しました。