デモの新聞報道(その2)

行政が依存する無料定額宿泊所の実態、それへの大阪市の取り組みと背後にある意向について8月15日〜18日に4回連載されてきたコラムの最終回で、デモについても取り上げています。

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朝日新聞8月18日夕刊
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生活保護 制度の陰で 4

「最後の砦」見直しに不安

 「人の命に、期限をつけるな」
 10日、東京・日比谷公園近くの厚生労働省や、大阪市東京事務所が入るビルの前を、約70人がデモ行進した。職を失った後に生活保護で立ち直りのきっかけを得たという女性(32)は、「私たちを守る制度を壊さないで」と訴えた。
 厚労省はいま、生活保護制度の見直しに向けた自治体との協議を非公開で進めている。昨年10月、政令指定市長でつくる「指定都市市長会」が、大阪市の発案をきっかけに政府に改革を提言。協議はこの流れを受けたものだ。
 市長会の提言には、働けると見られる保護受給者が職を得られない場合には一定期間後に保護取りやめを検討する、医療費の一部の自己負担を求める、といった項目がある。このため保護を受けている人らは「憲法25条が保障する最低限度の生活が守られなくなる」と反発している。
 こうした反発や不安をさらにかきたてているのが、大阪市の動きだ。今年1月、市は各区役所の担当者に保護申請者への就労についての助言指導のガイドラインを配った。
 働けると見なせる申請者が「就職面接を何回もしたが就労の機会がない場合」は保護を認める一方、「就労への意欲がなく、求職活動を行わない」と判断される場合などは却下するとの内容だ。
 すでに実例も出ている。失職した30代の男性は6月に保護申請。担当職員から「週に2回は面接を受けるように」と求められたが、交通費に事欠き、体調が悪くて外出できない日もあったことで「熱心さがない」と却下された。男性は受給者の権利擁護に取り組む弁護士たちの助力を得て、ようやく保護が認められた。
 小久保哲郎弁護士は、「ガイドラインがほかの自治体に広がり、新たな申請拒否の動きにつながる可能性もある」と懸念する。
 一方で、無料定額宿泊所の事業者に対する全国的な規制の動きは鈍い。民主党の有志が昨春から規制法案の国会提出を検討中だが、政局の混乱もあって見通しが立たないままだ。
 生活保護制度の改革に反対する学者らは、生活保護以外の社会保障の枠から外れがちな非正規雇用からの失業者らを救うことこそ問題解決につながると主張。住居確保や職業訓練を含めた就労支援など「第2のセーフティーネット」の拡充を求める。
 首都圏のある自治体の生活保護担当幹部は語る。「生活保護は国民を守る最後の砦(とりで)だ。ここに来る前に救えれば保護対象者は減り、業者もはびこらない。それなのに、現状は『最初で最後の砦』。矛盾は大きくなる一方だ」
                                         (吉田啓、園田耕司)
                                               =おわり